近年、エゾシカが増え過ぎた事が問題になっています。
シカが増えて起きる問題は簡単にいうとこんな感じです。
- 農業被害
- 車や列車がエゾシカと衝突する事故
- エゾシカが木の皮もはいで食べちゃう
- 木が立ち枯れる
- 植物の種類そのものが減る危険
- ガンガン食べられすぎて土砂崩れが起きやすくなる
- シカが食べる植物を食べていた虫や鳥も食べ物が無くなって減る
- ヒグマが食べるものも減る
と多方面に悪影響が出ているんだとか。
- 捕食者(オオカミ)がいなくなった
- 一時絶滅寸前だったから狩るのやめてた
- 繁殖力がハンパない
- ハンターが少なくなった
などの理由があります。
エゾシカが北海道で増えて起きる問題や増えた理由、エゾオオカミとの絶滅との関係、などについて調べた事をまとめてみました。
ちなみに、エゾシカが増えてる問題からエゾシカを食べて消費しよう!という話も北海道ではよく聞きますよね。
>>エゾシカの狩猟と飼育モノで食べ比べ!美味しい食べ方まとめ
エゾシカ増えすぎ問題
2020年の被害額
1980年代からは道東地方でエゾシカの食害が大きな問題になっています。
北海道が発表した野生鳥獣の被害調査によると、
2020(令和2)年の農業などへの被害額は約50億円となっています。
- エゾシカ 約40億円
- カラス 約2億7000万円
- ヒグマ 約2億5000万円
被害の8割はエゾシカによるもので、被害額が大きい釧路・十勝・オホーツクを合わせると約20億円の被害が出ています。
エゾシカは水稲やビート、いも、デントコーン、豆や根菜類を食べてしまっています。
他にもエゾシカは牛の餌となる牧草地の草も食べてしまうので、電気牧柵などを設置する費用も農家さんはかけています。
なんだかんだ理由(後述)があって、エゾシカが増え、1980年代から農業や林業などに数億円単位の被害が出るようになりました。
1998年からは道東地区エゾシカ保護管理計画をもとに狩猟を緩和し、エゾシカの数は一時的に減りました。
2007年には約20億にまでなったものの、それでもじわじわ増えて今では40億円に。
しかも、被害が主に道東だったのが段々、南や西にも被害が広がるようになっているのも問題視されています。
人里にクマが出るようになる一因?
最近よくヒグマが人の近くに出てくる、というのが問題になっています。
昔は数年間隔でおきる自然現象の1つと考えられていましたが、今では年間での出没が頻繁になっています。
冬眠に向けてエサを食べる、という時期ではない、夏にすら出ている事も。
- シカが増えて植物を食べる
- 山の中の植物が減る
- クマが食べる植物も減る
- ご飯を探して人里にまでクマがおりてくる
という理由もあるのでは?と考えられています。
実際に、鹿が増え過ぎた結果、植物への影響はとても大きなものになっています。
エゾシカの植物への影響
エゾシカの主食はササなどですが、無くなると木の皮まで剥いで食べます。
特に、シカが集まる越冬地だとよりひどく、皮が食べられすぎた木は立ち枯れてしまうほどなのだとか
一日に数キロは草を食べるので、鹿が増えるとそれだけ植物へのダメージも大きくなるわけですね。
- エゾシカが食べない植物だけが増える
- 元々あった植物が無くなってしまう
などの植生に対する影響もあり、特に知床では大きな問題になっているのだとか。
エゾシカが増えた理由
シカの繁殖が強い
単純に、エゾシカの繁殖力はとても強いです。
条件が良ければメスは2歳から15歳ごろまで毎年1頭は生むと言われています。
捕食者であるエゾオオカミに食べられても種が存続する為に、強い繁殖力を持っていたのだとか。
洞爺湖の中島にはかつてエゾシカは住んでいませんでしたが、オスメス併せて3頭を人が島に入れました。
すると、約30年で299頭にまで増えていたそうです。
これは狭い島の中で、食べられる餌も限られている中での話ですが、食べる物も豊富で広い場所だったならもっと増えていた事でしょう。
捕食者(エゾオオカミ)がいなくなった
かつての北海道では、エゾシカが増えても捕食者であるエゾオオカミがいたので、増え過ぎることは無かったと考えられています。
しかし、エゾオオカミは明治時代に様々な理由が重なって姿を消してしまいました。
人間による森林利用の影響
室町や戦国時代には各地の城持ちが森の木々を切り出して建物を作ったり燃料にしたりしていました。
その流れで江戸時代にも戦や築城をする為に、材木をたくさん利用していました。
北海道の木も商人を仲介して本州に出ています。
- 戦時中の軍事目的でも木材がたくさんいる
- 戦後になって復興&開拓の為にも材木が必要
たくさん木を使うために、植林をするようになったものの、エゾシカなどの動物のエサにはならない木ばかりが増えていきました。
そして、
- すぐに木は育たない
- 作るのに手間ひまかかる
- 外国産の材木の方が安くなった
という事で、林業が昔のように活発にならなくなります。
森に人が入る事も少なくなり、エゾシカは自由気ままに増えていきました。
しかし、増え過ぎて自分達が食べるものも少なくなってしまったために、田畑の物を食べてしまうようになった、と考えられています。
ハンターの高齢化&減少
日本全国での話になりますが、1970年代に50万人いた狩猟免許保持者は、2016年では20万人になっていたそうです。
北海道でいうとハンターの数がピークだったのは昭和53年で、約2万人いたとされています。
2020年では北海道 猟友会のホームページによると、猟友会の会員さんは約5000人。
もちろん、猟友会には入らずに個人で狩猟をしている人もいることでしょう。
しかし、ハンターの高齢化&エゾシカを獲る狩猟者も減っている事がエゾシカが増えても対処しきれない理由の一つと言われています。
ちなみに、エゾシカを自分でとりたいとなったら色々お金もかかります。
>>北海道でエゾシカを狩猟するのに必要な免許や費用は?駆除したら貰える報奨金って?
エゾシカとエゾオオカミの関係
明治後半~昭和前半くらいまで、エゾシカは数が少ないので禁猟対象にもなっていました。
しかし、今となっては捕食者のエゾオオカミはいなくなり、エゾシカは増えまくっています。
明治初期のエゾシカ
明治時代になり、北海道開拓の費用を稼ぐために、開拓使は肉や皮の輸出の為にエゾシカをたくさんとりました。
- 肉→缶詰にしてアメリカへ
- 皮→フランス
- 角など→中国
民間人もエゾシカの価値を知っているのでよく乱獲されていました。
そして、北海道ではちょくちょくエゾシカは自然災害の影響を食らう存在でした。
ちなみに、この頃のエゾシカは夏の時期は日本海側で暮らし、冬になると雪の少ない十勝や北見など道東地区で越冬していたそうです。
そのエゾシカの移動ルートの中にあったのが、千歳市美々地区。
開拓使が行っていた官営のエゾシカ肉缶詰工場があった場所にあたります。
大雪でエゾシカ大量死
大雪で身動きが取れなくなったり、雪で隠れて草が見つけられなくなったりした結果、餓死したエゾシカが大量に出ました。
道東・十勝ではその後1882(明治15)年にも、大雪の影響でシカが減ったという記録があるので、恐らく大雪でシカが減る事は一度や二度の事ではなかったのでしょう。
開拓使は何度かシカの乱獲を防ぐ法を作ったり、規制をしていたりしましたがあまり効果は無かったようです。
- 人の乱獲
- 自然災害
そんなこんなで、明治にめちゃくちゃエゾシカが減って絶滅寸前になります。
困ったのはエゾシカを食べていたエゾオオカミです。
ご飯を求めたエゾオオカミ
そんな時にちょうど北海道ではアメリカにならって農業や牧場を作っていました。
アメリカから牧場指導の為にやってきていたエドウィン・ダンは今の日高地方にあった、新冠牧場で馬を育てていました。
エゾシカが減って、捕食者であるエゾオオカミは食べ物を探していました。
エゾオオカミによって、牧場の馬はほとんど食べ尽くされてしまう程の被害が出てしまいます。
アメリカでは、牧場をおびやかすオオカミの駆除は行われていました。
ダンは丹精込めててた馬を奪われる事を防ぐため、北海道のこれからの牧場の為にオオカミを退治しようと行動しました。
そして北海道の行政も、エゾオオカミの駆除に力を入れる事になります。
エゾオオカミ絶滅
駆除に力を入れた結果、北海道からエゾオオカミがいなくなりました。
そもそもの数が少なかったのでは?とも考えられています。
ちなみに、本州にもニホンオオカミがいました。しかし、彼らも明治時代にいなくなっています。
本州のオオカミ絶滅理由
- 最後に見られたのは1905(明治38)年
- 狩猟の影響
- 狂犬病など病気の影響
- 森林開発などで住む場所が無くなった影響
などと言われてるんだとか。
ちなみに、狩猟の影響はオオカミそのものがとられた、というのもありますが、シカの乱獲で食べ物が減ったという影響もあります。
エゾシカが禁猟になった明治後半~
1889年には様々な事情でエゾシカ猟を禁止したため、アイヌ民族の人々もそれまでのようにはシカをとる事はできなくなりました。
大正、昭和と禁猟対策がとられ、1956年には一部狩猟が解禁されます。
1970年代には自然保護運動が活発になり、密猟が摘発されるようになったりと、狩猟そのものが適正に行われるように目が向けられるようになりました。
エゾシカが増えた昭和時代~
エゾシカはそこから徐々に増えていき、1970年代には農業被害が出始め、80年代には億単位のものになっていました。
この頃には離農者が増えはじめ、ハンターの数も減り始めていました。
シカ皮は輸入品の方が安くなり、肉として牧場で飼育された牛や豚などが手に入る時代になりました。
エゾシカの利用価値が、狩猟が禁止されていた頃よりもとても低いものになっていたのです。
人の欲のままにエゾシカをとり、
生活の為にエゾオオカミを追い、
エゾシカが増えてきた頃には、かつてのようにエゾシカを欲しがらなくなっていたのです。
そして現代はエゾシカの捕食者だったエゾオオカミもいない世界です。
絶対的な捕食者に食われる事が減り、被害が出すぎたからまたシカを駆除する、ある意味これまでの行動が矛盾しているような現象ではないでしょうか。
エゾオオカミを追いやった人間が捕食者としての責務を全うすべきだ、という考えなどもあり、北海道では2006年以降からエゾシカ肉を積極的に食べる取り組みなどが行われています。
エゾオオカミがいたら良かった?
エゾオオカミが今でもいたら、シカを食べてくれたでしょう。
しかし、同時にエゾオオカミによる馬や牛などへの被害が出るようになっていたのでは?と考えられています。
今ではヒグマがとても怖い存在ですが、そこにエゾオオカミも追加される事になったのでしょう。
今の目線で何が悪いこうしたら良かったのに、と言うのは簡単です。
が、エゾオオカミがいる事で起きる問題も同時に考えなければなりません。
ただ、北海道=乳製品が美味しい、馬の名産地と言われる根底にあった事を忘れてはいけないと思うのです。
最後に
エゾシカが増えた理由と被害、北海道とエゾオオカミについての話でした。
調べてみると、今の北海道に繋がる流れの中で起きたエゾシカの絶滅危機やエゾオオカミの絶滅などが今のエゾシカが増えた事にも影響を与えていた、という事を知りました。
私個人にできる事は少ないですが、せめて買ったエゾシカ肉や貰ったエゾシカ肉は美味しく食べようと思いました。
>>エゾシカと車がぶつかった時の対処は?コープさっぽろで売ってる理由は?豆知識まとめ
参考書籍など
けものが街にやってくる 人口減少社会と野生動物がもたらす災害リスク羽澄俊裕
これからの日本のジビエ 野生動物の適切な利活用を考える押田敏雄
シカ問題を考える バランスを崩した自然の行方高槻成紀
エゾシカは森の幸 人・森・シカの共生大泰司紀之 平田剛士
狩りガールが旅するおいしいのはじまりあり 新岡薫
うまいぞ!シカ肉 捕獲、解体、調理、販売まで松井賢一 藤木徳彦 竹内清 長谷川直 中村勝宏
アイヌ文化の基礎知識 児島恭子
図解 アイヌ 角田陽一
北海道 野生鳥獣被害調査
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/higai.html
など